スタイラスについてのQ&A

Q. 先端球のグレードは?
Q. 「互換品」というのは?
Q. カタログにあるメーカー以外の機種でも使えますか?
Q. なぜ同一寸法で材質の違う製品があるのですか?
Q. スタイラスを落としてしまいましたが大丈夫ですか?
Q. スタイラスの耐久年数、交換時期はありますか?
Q. スタイラスの貸し出しは行っていますか?
Q. スタイラスはどのメーカーのものを使っても同じですか?
Q. 先端φ3mmで長さ150mmのスタイラスは作れますか?【New】
Q. スタイラスの検査成績書は発行できますか?【New】
Q. 型番の分からないスタイラスがあるのですが?【New】

Q. 先端球のグレードは?

A. グレード3からグレード5に相当します。

精密測定用のスタイラスに使用される先端球は、形状誤差(真球度)、直径誤差、表面粗さが 十分に小さいことが必要条件です。ISOやDINには球に関する精度表示の規格があり、itpではグレード3から5に相当する高品質な球を使用しています。

形状誤差とは、最小外接球の中心に対する最大半径と最小半径の差になります。直径誤差とは、ひとつの球を何ヶ所か測定した最大直径と最小直径の差になります。

 形状誤差(μm)直径誤差(μm)表面粗さRa(μm)
itpの先端球0.08-0.130.08-0.130.007-0.008
グレード30.080.080.010
グレード50.130.130.014
グレード100.250.250.020

※JISでは B1501-01 に軸受用鋼球に関する規格があり、表面粗さが等級3で0.012、5で0.020、10で0.025となるほかは同じです。

Q. 「互換品」というのは?

A. メーカー製品と寸法の互換性があるということです。

各測定機メーカー、プローブセンサーメーカーではそれぞれ独自の仕様、規格でスタイラスを製造しています。また大多数のメーカーではレニショー社製プローブセンサーを採用しており共通性があります。

itpでは大手メーカーにOEM供給していた実績と経験を生かして、各社の仕様に適合する同一寸法の製品を製造しております。面取り幅など細部の仕様が違う場合がありますが、測定に差し支えるものではありません。

Q. カタログにあるメーカー以外の機種でも使えますか?

A. ねじ径やプローブセンサーのタイプが同じであれば基本的にどれでも使えます。

ほとんどの測定機メーカーではM2/M3/M4/M5/M6/M8の並目ネジを使って取り付けるようになっています。またプローブセンサーも自社開発品でなければレニショー製のものを使っている場合がほとんどです。

ただし、プローブセンサーのタイプがタッチプローブかスキャニングプローブかによっては向き不向きがありますし、特にタッチプローブには重量制限や長さ制限があります。また加工機用のものは接触圧が強いので細いシャフトの小径スタイラスは使えません。基本的にメーカー純正品のラインナップにある範囲を超えるもののはユーザー責任での使用となります。

現在お使いの測定機のメーカー名や機種名でお問い合わせいただければ、使用可能かどうかお調べしてアドバイスさせていただきます。このサイトのメーカー型番検索ページでもメーカー品番から該当itp製品を検索することができますのでお試しください。itpスタイラス製品の検索ページではネジ径と軸の材質から調べることもできます。

Q. なぜ同一寸法で材質の違う製品があるのですか?

A. 用途に応じて最適な材質を選択する必要があるためです。

例えば長いスタイラスを使って深穴を測定したい場合、長い超硬シャフトでは重くなってしまってタッチプローブではうまく動作しないことがあります。軽いセラミックやカーボンファイバー製スタイラスを使用することで測定できるようになります。

また、測定室温が不安定な現場環境で大型のワークを測定する場合、通常のアルミニウムやスチール製エクステンションでは温度変化によって長さが変わってしまうため測定結果が変わってしまいます。カーボンファイバー製のエクステンションであれば温度変化に強く、剛性も高いためしなりによる数値のばらつきも少なくて済みます。

あるいはルビー球のスタイラスで、加工が終わったばかりで表面処理されていないアルミニウムワークを連続してスキャニング測定すると、アルミニウムがルビーに反応してべったりと球表面に付いてしまうことがあります。

これは「凝着磨耗」といって、アルミニウムと組成が同じルビーは化学的に結合しやすいために起きるものです。シリコンニトライド(窒化珪素)球は凝着磨耗が発生しにくいので、このようなアルミニウムワーク用に適しています。

ところがルビーやセラミック、シリコンニトライドは鋳鉄のような硬いワークをスキャニングすると、短時間で磨耗してしまう場合があります。この場合は磨耗しにくいジルコニア球が適しています。

その他にも最近ではこれに加えてさらに長寿命なダイヤモンドコーティングスタイラスもご用意できます。砥石のような表面を連続してスキャニング測定しても摩耗することがありません。超々ジュラルミンといった材料ではシリコンニトライドでも材料の堆積が発生することが知られていますが、ダイヤモンドコーティングは堆積した材料を剥がすことができます。

このように測定する条件によって材質も含めたスタイラスの選択が必要になります。

Q. スタイラスを落としてしまいましたが大丈夫ですか?

A. 衝突や落下などで強い衝撃が加わったものは精度保証できなくなります。

床や測定定盤のような硬いものの上に落とした場合、あるいは自動測定中にワークに干渉するなどしてプロービング速度以上の速度でぶつけてしまったような場合、スタイラスに目に見えないダメージを与えている可能性があります。

先端球のルビーはサファイアと同等の硬さですが、非常にもろいため当たった箇所が小さく欠ける場合があります。また先端球とシャフト、シャフトとベースといったパーツ間の接着がはがれてしまう場合もあります。

これらは目視では分からないため、通常はキャリブレーション時の結果を見て判断します。偏差が大きいなど異常が認められる場合は新品のスタイラスと結果を比較するなどして、早めに廃棄・交換すべきです。昔は三次元測定機にエポキシ樹脂接着剤の修理キットが付属していて、ユーザー責任で修理して使っていた時代もありましたが、瞬間接着剤は全くお勧めできません。修理品は測定結果が保証できないので新しいものを使うべきです。

Q. スタイラスの耐久年数、交換時期はありますか?

A. 耐久性は使用条件に大きく左右されます。定期的に精度検査をしましょう。

見た目はきれいで全く使っていないようなものでも、測定室の環境によってはある程度の年数が経つと接着剤が劣化して接着箇所がぐらついているというケースがあります。特に高温多湿な日本では、定期的に精度検査した方がいいでしょう。

開封したばかりの新品でしたが、アルミワークをスキャニングしたため凝着磨耗を起こし形状誤差が悪くなったため短時間で使えなくなってしまった、というケースもあります。

もちろん、保管や使用方法を徹底的に管理しているため、測定機と一緒についてきたものを十年以上は使えている、というケースもあります。測定結果に異常がなければ、劣化や損傷があったとしても問題がない程度だったと考えられます。しかし油断はできません。

傷や汚れなど、気が付かないうちについてしまっているものです。リングゲージや校正球を多点測定するなどで簡単に見つけることができますから、定期的に確認するといいでしょう。ドイツの自動車メーカーでは3年で全交換することにしている企業もあります。

Q. スタイラスの貸し出しは行っていますか?

A. スタイラスは消耗品ですので貸し出しは行っておりません。

どの程度使えば消耗するかは使用条件にもよりますが、傷ついたり磨耗したりした場合廃棄するしかありません。試用を前提とした貸し出しは行っておりません。

Q. スタイラスはどのメーカーのものを使っても同じですか?

A. 測定機メーカー純正品がベストではあります。互換メーカー品は信頼できるものを。

測定機メーカーが自ら製造・販売している純正品は信頼性が高いですが、価格も高く、納期は月単位とかなり長くなっています。これは製造工場では測定機を作るのがメインで、消耗品は在庫を持つのが難しいためほぼ受注生産になっているからです。

itpのようなスタイラス専門メーカーであれば信頼性はメーカー純正品と同等で、しかも在庫販売ですので納期も数日と短く、価格もメーカー純正品より安く設定されています。気をつけないといけないのは、どこで作っているかも明かさないような廉価品です。精度表示もなく、中にはわざわざ精度が落ちる分安い、とまるでセールスポイントであるかのように誤解させているものもあります。品質保証は測定機のブランドでするものではありません。高精度測定機にはそれに見合った品質のスタイラスが必要です。

Q. 先端φ3mmで長さ150mmのスタイラスは作れますか?

A. 結論から申し上げると「そのような形をしたもの」を製作することは可能です。しかし使いものにならないのでもはやスタイラスとは呼べないかも知れません。もちろん作ったとしても測定結果は保証されません。動作保証すらできません。

スタイラスは一部の例外を除き先端球径DKより軸の径DSは細くなります。軸の材料が各種ありますので、長さが足りればスタイラスの形に作ることはできます。ただし、どのような材質でも測定時に多少なりとも接触圧がかかればたわみますので、場合によってはとんでもない測定結果が出ることになります。悪くするとエラーを検知して測定データが得られないこともあります。

先端DK3.0スタイラスの場合、長い軸にはカーボンファイバーや超硬を使います。超硬は重くなるため、タッチプローブにはカーボンファイバーを、スキャニングプローブには超硬を使います。例えば超硬だと普通のスタイラスではφ1.5または2.0のものがありますが、スキャニング機で一般的な測定圧0.2N(=200mN)かかったとするとどちらも先端球との半径差を超えるたわみを生じます。運良くプロービングできたとしても、たわんでしまった軸が測定物表面に接触しているため、測定結果は全く信頼できません。

接触圧を変更できる機種であれば少し落としてやることで改善される場合もありますが、落としすぎると今度はたわみのせいで跳ね返ってしまい、いつまでも接触状態が安定しません。この場合も測定結果が出たとしても信頼できる測定結果にはなり得ません。シングルポイント測定でこのような具合ですのでスキャニング測定は何周測定しても同じになりません。こちらの資料をご参考に、適切な長さに留めるようにして下さい。

タッチプローブの場合、低触圧プローブにカーボンファイバーを使用したとしてもたわみが大きいためプロービング信号をうまく取り込めずエラーになる可能性が高いです。また取り込めたとしてもタッチプローブの構造上プロービング方向による感度差が強く出ます。加工機用タッチプローブはスキャニングプローブよりさらに接触圧が強いものが多いので取り込めない可能性が高いです。こちらも適切な長さに留めるようにして下さい。

Q. スタイラスの検査成績書は発行できますか?

A. スタイラスは測定機精度にとって重要な部品ではありますが、校正球のような寸法基準ではなく消耗品ですので成績書をつける意味はありません。もちろん先端球や寸法について保証された精度はありますし、どうしても必要であれば公的な認証機関に依頼して作成することはできますが、スタイラス単価の何倍ものコストがかかります。

本来の検査成績書とは、品質保証書とは違い何らかの寸法基準とするため単独での真値を保証するものです。例えば校正基準球は、校正作業によってスタイラスの実効直径を求めるために検査成績書による直径真値の保証が必要です。スタイラスはこの校正作業によって求められた計算上の数値を使いますが、軸のたわみ成分などを含むため真値とは違う数値となります。

もちろんスタイラス製品単体の寸法や先端球の呼び径、球の形状誤差(いわゆる真球度)や表面粗さは公差があり、それらについての精度保証はありますが全製品一括の保証ですので個別に成績書を発行することはありません。

特に針スタイラスについては元々が長さと軸の直角度ぐらいしか保証されていません。本来の用途としてラフな点座標測定に使用されるもので、先端Rは測定物保護のために丸めてあるに過ぎません。ボールスタイラスと同じ使い方はできません。

[参考] 計量トレーサビリティについて

「計量トレーサビリティ」とは、計測機器に対して測定結果の確からしさを証明する考え方で、検査成績書もそのひとつです。

ノギスやマイクロメータ、三次元測定機もそうですがブロックゲージやリングゲージなど真値の証明されたものを使ってその測定結果の数値が正しく出るよう定期的に校正する必要があります。このゲージ類もまた校正業者や認証機関等で正しい数値であることを定期的に検査して証明書を受けるわけですが、これらの団体が持っている検査機器はまたさらに上位の認証機関で検定を受けており、最終的には世界中で統一された長さの基準原器にたどり着きます。

このような追跡可能な連鎖(トレースチェーン)を明らかにすることで測定結果の精度が保証されるという考え方を計量トレーサビリティと言います。計量トレーサビリティを証明するには測定機器の校正を行った際に発行される『校正証明書』、校正の際に使用した基準器などを検定した際に発行される『基準器検査成績書』、そしてそれらが基準原器につながっていることを証明する『トレーサビリティ体系図』の3点セットが必要になります。

一般的に計測機器に対して適用される考え方ですので、構成部品であるスタイラス単品には適用されません。もちろんドイツ工場ではトレーサビリティの証明された計測機器類を使用してスタイラスを製造しています。

Q. 型番の分からないスタイラスがあるのですが?

A. 「以前購入したitpロゴのあるスタイラスと同じものが欲しい」「型番の分からない測定機メーカー純正品のスタイラスがあるが、itpに相当品があれば欲しい」といったお問い合わせがあります。必要な寸法諸元をお知らせくだされば、経験豊富な担当者がお調べします。こちらの資料をご参照下さい。